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サイテックジャパン
篠原 雅人
2022/7/4
建設DX
【第3回】遠隔臨場
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建設現場の生産性向上に寄与する遠隔臨場とは?

はじめに

国土交通省では、直轄工事現場で行う遠隔臨場の原則適用を2022年度から目指しています。
遠隔臨場は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止の観点※1から、2020年より試行が開始され、『建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)』※2、『建設現場の遠隔臨場に関する監督・検査試行要領(案)』※3が策定されました。(以下、試行要領(案)と称します。)
また、2021年には、遠隔臨場で使う映像の保管方法や撮影仕様の条件を緩和し、中小規模事業者も活用しやすいようこの試行要領(案)が改定されています。これ以降も、受注者側から希望があり双方で協議すれば、発注者側が費用負担する発注者指定型とする方針が示されたことや、中間技術検査などへの適用拡大に向けその効果や課題が検討されていることなどから、遠隔臨場の適用範囲は今後拡大していくものと認識しています。
本コラムでは、国土交通省が試行する現時点(2022年2月)の遠隔臨場について、遠隔臨場の適用範囲と、遠隔臨場で使用する機器と仕様を示します。この上で、今後の展望として、建設現場の生産性向上に寄与する観点で、「建設現場の遠隔臨場」を提案します。

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※1 国土交通省 「新型コロナウイルス感染症対策」
※2 国土交通省 「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)」
※3 国土交通省 「建設現場の遠隔臨場に関する監督・検査試行要領(案)」


遠隔臨場を必要とする理由

2019年に改正された『公共工事の品質確保の促進に関する法律の一部を改正する法律(以下、品確法と称する)』※4によれば、改正した背景・必要性に、建設業・公共工事の持続可能性を確保するため、働き方改革の促進と併せて、生産性の向上が掲げられています。
このため、建設現場の遠隔臨場は、建設現場における新型コロナウイルス感染症対策として推進されたことは間違ありませんが、品確法を順守する観点からも推奨される政策であると認識しています。

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ここで、受注者と発注者それぞれが抱える課題の視点から、建設現場の遠隔臨場が必要とされた理由を挙げます。

受注者側の課題

・人手不足や人材難からICT施工への対応に苦慮している。

・技術者の専任が求められていない小規模工事では、技術者の移動時間を見込む必要がある。

・資料作成が主体の現場管理から脱却したい。(とかく形式的な資料作成は回避したい)


発注者側の課題

・事務所から建設現場まで職員の移動が必要となるため、建設現場への臨場回数を多くできない。

・日々の業務を少人数でこなしているため、いつでも建設現場に臨場できるとは限らない。関係資料だけでは判断できない場合、適宜、建設現場に臨場して状況を確認したい場合がある。

※4 国土交通省 「令和元年度品確法の改正」


国土交通省が試行する遠隔臨場

港現在(2022年2月)、国土交通省が試行する遠隔臨場を説明するため、遠隔臨場の適用範囲と、遠隔臨場で使用する機器・仕様を次に示します。

遠隔臨場の適用範囲

試行要領(案)で扱われている遠隔臨場の適用範囲は、下表のとおりです。

実施画面 内  容
段階確認 設計図書に示された施工段階において、監督職員が出来形、品質、規格、数値等を確認すること。
材料確認 設計図書に示された事前に監督職員の確認を受けなければならないとされた指定材料の形状寸法、品質,員数、規格、数値等を確認すること。
立 会 契約図書に示された項目について、監督職員が臨場により、その内容について契約図書との適合を確認すること。
※ 遠隔臨場の実施場面は「段階確認」「材料確認」と「立会」だけではなく、現場不一致、事故などの報告時等の活用を妨げるものではない。
参考「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)」「土木工事共通仕様書」



遠隔臨場で使用する機器と仕様

試行要領(案)に示されている遠隔臨場で使用する機器構成の例は、下図のとおりです。

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また、動画撮影用のカメラ(ウェアラブルカメラ等)による映像と音声と Web 会議システム等に関する仕様は、下表のとおりです。

項 目 仕 様 備 考
映 像 画素数:640×480 以上
フレームレート:15fps 以上
カラー
音 声 マイク:モノラル(1 チャンネル)以上
スピーカ:モノラル(1 チャンネル)以上
 
※ 映像と音声は、別々の機器を使用することが出来る。また、夜間施工等における赤外線カメラや水中における防水カメラ等の使用を妨げるものではない。
引用「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)表2-1」


さらに、遠隔臨場で使用する機器と仕様として試行要領(案)に示されているWeb 会議システム等に関する仕様と、画素数と最低限必要な通信速度は、それぞれ下表のとおりです。

項 目 仕 様 備 考
通信回線速度 下り最大 50Mbps、上り最大 5Mbps 以上 カラー
映像・音声 転送レート(VBR):平均 1 Mbps 以上  
※ Web 会議システム等は通信回線速度により自 動的に画質等を調整するため、通信回線速度を優先し、転送レート(VBR)は参考とする。 引用「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)表2-2」


画 質 画素数 最低限必要な通信速度
360p 640×360 530kbps
480p 720×480 800kbps
720p 1,280×720 1.8Mbps
1,080p 1,920×1,080 3.0Mbps
2,160p 4,096×2,160 20.0Mbps
※ 使用する機器の機能としては仕様を満たしていても、機器の設定により、仕様を満たさない場合があるため、注意すること。(例:使用する端末の画質を「高設定」にした場合は仕様を満たすが、「低設定」にした場合、仕様を満たさなくなることがある。)
また、本表は目安であり、利用環境や電波状況、時間帯に応じて変化することに留意する。
引用「建設現場の遠隔臨場に関する試行要領(案)表2-3」

建設現場の生産性向上に寄与する遠隔臨場 ~「建設現場の遠隔臨場」~

国土交通省からこれまでに公表された資料や報道内容から、直轄工事における遠隔臨場は、その適用範囲が拡大すると想定されます。
一方、遠隔臨場の考え方や方法は、例えば「建設現場までの移動時間」、「到着を待つ待機時間」といった本来は必要がないと考える無駄な損失時間を出来る限り無くすツールとしても、建設現場で活用できると考えます。
このような建設現場のムダ※6は、長時間労働の一因にもなっているため、特に人手不足の建設現場では、現場の常識を改革して、生産性向上を目指すべきだと考えます。
そこで、本コラムでは、i-Construction関連商品・ソリューションの販売・サポート全般を行っている立場から、建設現場の生産性向上に寄与する、最先端技術を用いた次の「建設現場の遠隔臨場」を提案します。

①「設計の照査」における「建設現場の遠隔臨場」~3D設計形状,契約条件、設計条件の確認~

②「引照点設置・移設の協議/報告」における「建設現場の遠隔臨場」~用地幅杭,測量標(仮BM),工事用多角点等の確認~

③「工事打合せ」における「建設現場の遠隔臨場」~施工計画・施工手順の説明~

④「建設現場管理」における「建設現場の遠隔臨場」~ICT建機のトラブル対応~

⑤「ICT施工の作業判断」における「建設現場の遠隔臨場」~ヒートマップの確認~

⑥「安全巡視」における「建設現場の遠隔臨場」~建機配置・施工箇所の確認~

※6 引用「国土交通省 ICT導入協議会 第11回 資料-4 建山委員提出資料(リーンマネジメントの導入)


「設計の照査」における「建設現場の遠隔臨場」

~3D設計形状,契約条件、設計条件の確認~

直轄工事の受注者は、施工前、あるいは施工途中に、設計図書の照査を実施します。この設計の照査では、受注者が次の内容などに該当する事実を発見した場合、監督職員にその旨を直ちに連絡しています。

・設計図面の現況地形と実際の工事現場が一致していない。

・工事着手後直ちに行う測量結果が、設計図書に示されている数値と差異を生じている。

・設計形状と実際の工事現場との取合いが不明確。

この上で、設計照査で発見した事実が確認できる資料(現地地形図、設計図との対比図、取合い図、施工図など)を作成し、これを監督職員に提出し、その確認を求めた上で、監督職員が提出資料に基づき確認しています。
この適用場面では、主に、受注者による「設計照査で発見した事実が確認できる資料作成」と、監督職員による「立会」において、「建設現場の遠隔臨場」の適用、あるいは「建設現場の遠隔臨場」により取得できる情報を活用することで、ムダが削減できると考えます。

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「引照点設置・移設の協議/報告」における「建設現場の遠隔臨場」

~用地幅杭,測量標(仮BM),工事用多角点等の確認~

直轄工事の受注者は、施工に必要な仮水準点、多角点などの引照点や、その他工事施工の基準となる仮設標識を設置しています。また、施工期間中は、これらを適宜確認するとともに、変動や損傷のないようにしています。さらに、発注者で設置した既存杭(用地境界杭など)も保全が求められています。
このため、不測の事態によりこれらに変動や損傷が生じた場合は、監督職員に連絡し、速やかに水準測量、多角測量等を実施し、これらを復元しています。
この適用場面では、主に、受注者による「引照点や既存杭の現地確認」において、「建設現場の遠隔臨場」の適用、あるいは「建設現場の遠隔臨場」により取得できる情報を活用することで、ムダが削減できると考えます。

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「工事打合せ」における「建設現場の遠隔臨場」

~施工計画・施工手順の説明~

現場事務所で実施する工事打合せにより、工事関係者が施工計画、施工手順について共通した理解を求めることが困難な工法を採用した工事を対象に「建設現場の遠隔臨場」を想定します。
このような場合、書面や図面を用いた説明に固執せずに、工事打合せにおける「建設現場の遠隔臨場」の適用、あるいは「建設現場の遠隔臨場」により取得できる情報を活用することで、複雑な内容を分かり易く伝える手段として期待でき、ムダが削減できると考えます。

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「建設現場管理」における「建設現場の遠隔臨場」

~ICT建機のトラブル対応~

油圧ショベルMC/MGのようなICT建機による施工を実施する建設現場では、以前のコラム※7に書いたように、その運用上の課題に「読み込んだ3 次元設計データに関わるトラブルや、油圧ショベルのMC/MG の構成機器のトラブルに伴う油圧ショベルの手待ち時間の増加」があります。
この課題の解決方法として、ICT建機に関わるトラブル対応が、建設現場以外の場所から実施できる「建設現場の遠隔臨場」が適用できると考えます。

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「ICT施工の作業判断」における「建設現場の遠隔臨場」

~ヒートマップの確認~

油圧ショベルMC/MGのようなICT建機による施工を導入した建設現場には、法丁張りといった仮設標識が全くありません。

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この場合に、ICT建機のオペさんはもちろん、建設現場で従事する作業員さんが、施工の仕上がり(面的な出来形管理)を確認することが可能で、建設現場以外で業務を行っている現場監督さんが、オペさんに遠隔から作業指示を行える「建設現場の遠隔臨場」が適用できると考えます。

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「安全巡視」における「建設現場の遠隔臨場」

~建機配置・施工箇所の確認~

油圧ショベルMC/MGのようなICT建機による施工を導入した建設現場においては、オペさんが車載モニタを注視するなどして、ICT建機周囲の安全確認不足になるヒヤリハット事案が増える傾向があるとされます。
このため、ICT建機による施工を導入した建設現場では、人とICT建機が協調して行う丁張り設置のような作業だけでなく、ICT建機の周辺に、人を出来る限り侵入させない対応も必要だと考えます。
この場合に、建設現場以外の場所から、建設現場で作業中のICT建機の位置や配置といった工事区域の監視が行える「建設現場の遠隔臨場」が適用できると考えます。

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「建設現場の遠隔臨場」のメリットと課題

本コラムで提案した「建設現場の遠隔臨場」の想定されるメリットと課題をそれぞれ示す。

「建設現場の遠隔臨場」のメリット

・動時間・待機時間の削減(建設現場のムダ削減による生産性向上)
・作業員と建設機械との接触事故防止(建設現場における安全性の向上)
・講習教材としての利用(建設現場の人材育成)


「建設現場の遠隔臨場」の課題

・導入技術・機器の不正行為の抑止・防止対策、データ改ざん対策

・導入技術/機器のコスト負担

・導入技術/機器に不慣れに伴う不安/負担

・通信環境/インターネット環境の確保

・導入技術/機器の利用条件への対応、導入技術/機器に対する機能要件への対応

・工事関係者のプライバシー確保



まとめ

まとめますと、このコラムでは、建設現場での活用が推進される遠隔臨場をまとめるとともに、建設現場の生産性向上に寄与する「建設現場の遠隔臨場」を提案しました。
改正された品確法の意図を組んで、建設業の働き方改革、建設施工の生産性向上、建設現場の生産性向上を達成するためのツール・手段として、「建設現場の遠隔臨場」を取り入れることは、有益だと考えます。
大事なことは、建設現場で働く皆さんが、日常業務で感じられている「建設現場のムダ」を出来る限り減らせるよう、それぞれの建設現場に必要だと意思決定した「建設現場の遠隔臨場」を適用することです。この意味で、本コラムで提案した「建設現場の遠隔臨場」が、建設現場の働き方改革のヒントとなれば幸いです。

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