VETERANS COLUMN
ベテランズコラム
サイテックジャパン
篠原 雅人
2022/8/22
建設DX
【第4回】デジタルツイン
  • 建設DX
  • i-Construction
  • 建設ICT導入
  • MC / MG

建設業界の未来を変えるテクノロジー「デジタルツイン」

はじめに

2016年に提唱された日本が目指すべき姿として、『Society5.0-未来社会-』※1があります。
狩猟社会をSociety 1.0、農耕社会をSociety 2.0、工業社会をSociety 3.0、そして現代の情報社会をSociety 4.0と定義し、それに続く新たな「超スマート社会」がSociety5.0(ソサエティ5)と提唱されています。この未来社会は、サイバー空間※2とフィジカル空間※3を高度に融合させたシステムである『デジタルツイン』を前提として、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会とされています。

建設DX

出典:内閣府ホームページ 科学技術政策 Society 5.0

また、デジタル社会の実現に向けた政策に、地方からデジタル化を進めて、地方と都市との差を縮める地方創生,地方活性化のための『デジタル田園都市国家構想』※4があります。この構想は、デジタル化を通じて地方が抱える課題を解決し、デジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現しようとするものです。

建設DX
建設DX

出典:デジタル田園都市国家構想実現会議(第2回)資料2-1
「デジタル田園都市国家が目指す将来像について」

これらの共通点は、現実空間のデジタル化を通じて得たデータをサイバー空間で活用し、現実空間の業務手順を新しくして、今抱えている課題を解決しようとする点にあるととらえています。このため、建設現場において問題となっている「慢性的な人手不足」「技術やナレッジの継承問題」「建設現場の生産性向上」を達成するための手段として、これらが応用できると考えます。 本コラムでは、Society5.0とデジタル田園都市国家構想で基本的な概念とした『デジタルツイン』の基本を説明します。また、『デジタルツイン』の実装に向けた発注機関の先進的な取組みとして、国土交通省、2つの地方公共団体(静岡県、東京都)の取組みを紹介します。さらに、建設現場での『デジタルツイン』の実装に向けた第一歩として、建設現場で得られるデータと、そのデータの利用方法を解説します。

※1 内閣府「Society 5.0」
※2 「フィジカル空間」とは、建設現場のような現実空間のこと
※3 「サイバー空間」とは、コンピューターやインターネットが代表されるネットワークによって構築された仮想的な空間のこと。
※4 内閣官房「デジタル田園都市国家構想実現会議」


建設分野で適用されるデジタルツイン

デジタルツインとは?

「デジタルツイン」とは、現実の地形、都市、建物、道路、インフラ、機器や移動車両、重機等に取り付けたIoT※5装置から得た様々なフィジカル空間の情報を、コンピュータのサイバー空間(仮想空間)上に送り、フィジカル空間の中のできるだけ多くの情報をサイバー空間へ再現することで、データ分析、シミュレーション、自動運転、生活向上など、幅広い用途で活用することを目指すものです。
サイバー空間上にフィジカル空間の情報を再現することから、「デジタルで造られた双子」を意味する「デジタルツイン」と表現されます。デジタルツインは、IoT等で取得したさまざまなデータをリアルタイムでサーバー空間へ送信し、AIが分析・処理をすることで、ほぼリアルタイムで物理空間のデジタルで再現することにその真価があります。デジタルツインにより、仮定した条件をもとに、サイバー空間上でシミュレーションや予測をすることで、現在はもちろん将来起こるであろう フィジカル空間での災害や変化の姿、その対策を先んじて捉えて検討することができるようになります。

建設DX

出典:出典:内閣府 Society 5.0 「Society 5.0 地球の未来をともに切り開こう」

このデジタルツインの概念は、新しいものでなく、工学分野で昔から使われてきた概念です。近年3Dモデリング技術の進展や、IoT、AIなどの技術の発展したことで、より現実的になってきたことから、注目されるようになりました。特に、5G※6の普及によるところが大きいと考えます。近い将来、建設現場で今まで以上にさまざまな建設機材や建設資材がネットワークへの接続・通信が行われ、データの利活用が促進されることが想像できます。
また、建設現場の「デジタルツイン」は、ドローンや3Dスキャナー、稼働建設機械、測量機器などから得られる3Dデータ、画像データなどの情報を用いて、サイバー空間内に建設フィジカル現場の環境を再現する手法が既に始まっていますので、リアルタイムのデータ活用で現状把握(施工モニタリング)や、未来予測ができるようになります。
具体的な例を挙げれば、工事進捗のモニタリングや、サイバー空間において騒音・振動などの環境シミュレーション、建設現場の稼働重機や測量機でリアルタイム収集したビックデータとAIを用いた工事進捗の把握と予測、修正などが考えられます。これにより、建設現場で実施される施工・施工管理のプロセスが新しく改善され、建設全体のプロセスが便利かつ無駄がないプロセスになることが「デジタルツイン」によるメリットです。
現在の建設業界は、現在、生産年齢人口減少による仕事の担い手・技術者不足や、作業工程が複雑化する中で現場における全体の作業進捗や作業員・重機の位置把握が困難といった課題が顕在化してきていますので、普及段階に入ったICT活用工事のデジタルツインをますます活性化して行かなければなりません。

建設DX
※5「IoT」とは、インターネットに、さまざまな「モノ」をつなげる技術のこと。
※6 「5G」とは、次世代の通信規格のことであり、第5世代移動通信システム(5th Generation)の略称。


デジタルツインの実現にむけた取組
~VIRTUAL SHIZUOKA構想~

『デジタルツイン』の先進的な取組として、VIRTUAL SHIZUOKA構想※7があります。このVIRTUAL SHIZUOKA構想は、地方公共団体である静岡県が2016年より実施している取組であり、3次元点群データで創るデジタルツイン構想であると、私は認識しています。静岡県が、この構想で実現したいと考えているのは、「明⽇起こるかもしれない災害に備えて3次元点群データを蓄積しておく」ことです。
特に今も記憶に残っているのは、2021年7⽉3⽇に不幸にも発生してしまった静岡県熱海市伊⾖⼭⼟⽯流災害おいて、備蓄していた3次元点群データの利用と「静岡点群サポートチーム」の迅速な活動で、⼟⽯流災害の原因と疑われる盛土の早期発見につながり※8、災害発生時の迅速な初動対応の有効性を証明するだけでなく、データの2次利用を可能とするオープンデータの有用性も証明したと考えます。
明⽇起こるかもしれない災害における迅速な初動対応のために、現在、誰でも自由に取り出せる全国初の点群オープンデータとして、静岡県全域の3次元点群データがダウンロード可能※9となっています。

建設DX

出典:出典:静岡県公式ホームぺージ

【関連動画】
VIRTUAL SHIZUOKA ~3次元点群データでめぐる伊豆半島~

※7 静岡県「VIRTUAL SHIZUOKA構想」
※8 静岡県「熱海市伊豆山土石流災害における点群データ活用〜静岡県が目指すVIRTUAL SHIZUOKA構想〜」
※9 G空間情報センター「3D都市モデル(Project PLATEAU)ポータルサイト」


デジタルツインの実現に向けた取組
~東京都 デジタルツイン プロジェクト~

『デジタルツイン』の実現に向けた取組みに、東京都 デジタルツイン プロジェクト※10があります。
このプロジェクトに関し2021年度に実証事業として公開されている成果の内、私が特に興味を持った報告に、地下埋設物の3D化による業務改善効果検証結果※11があります。地下埋設物に関与する業務で扱われる情報の標準化を図ること、関与する業務で共通で利用可能な情報を統一のルールで取得するといった工夫を図ることで、地下のデジタルツインが関与する業務の改善が出来るだけでなく、この地下埋設物を利用する都民の、安心安全な暮らしを実現できると結論づけています。

建設DX

出典:東京都ホームぺージ

※10 東京都「東京都 デジタルツイン プロジェクト」
※11 東京都「デジタルツイン実現プロジェクト 実証02地中の様子を3Dで把握し、生活を支えるライフラインを管理 報告書」


デジタルツインの実現にむけた取組
~国土交通データプラットフォーム~

デジタル田園都市国家構想の実現に向けて、国土交通省は、データとデジタル技術を活用し、組織やプロセス、働き方を変革できるインフラ分野のDX※12に取り組んでいます。また、DXの達成に必要なデータとして国土交通データプラットフォーム※13や、このショーケースである3D都市空間情報プラットフォーム『PLATEAU』※14が整備されています。国土交通省は、Society5.0、スーパーシティ、スマートシティ、街づくりのデジタルトランスフォーメーションを推進するため、このProject PLATEAU において、フィジカル空間である現在の都市をサイバー空間に再現する3D都市モデルの無料公開を進めており、既に56都市の3D都市モデルデータが公開されています。

建設DX

出典:国土交通省Project Plateau

【関連動画】
PLATEAU Concept Film
PLATEAU Use case Film
PLATEAU VIEW の使い方


今後、デジタルツインの実現に向けた取組、国土交通省、並びに、地方公共団体によるオープンデータへの取組は、あなたが働く地域でも今後取組が開始・進展することが想定されます。その時に備えて、あなたが働く建設現場においても、その利用方法を考えておく必要があると考えます。

※12 国土交通省「インフラ分野のDX」
※13 一般社団法人 社会基盤情報流通推進協議会「国土交通データプラットフォーム」 
※14 G空間情報センター「3D 都市モデル整備・活用・オープンデータ化事業Project PLATEAU」


デジタルツインの実現にむけた取組
~ICT活用現場より得られる3次元データを用いたデジタルツインに向けた実装~

国土交通省国土技術政策総合研究所から発表された一般報文※15によると、ICT を活用した建設現場から得られる表 1に示す3次元データを蓄積、連携、活用し、仮想空間上に建設現場を再現することで、つまり『デジタルツイン』を実装することで、インフラ整備プロセスの高度化が図れることが示されています。 一方、面管理を前提とした多点計測技術の採用 といった施工管理基準が改訂された現在においては、3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)※16にしたがい取得された3次元点群データを出来形管理に用いるだけでなく、現場管理業務や施工管理業務においても活用することが重要だと考えます。 これにより、『デジタルツイン』により、建設現場が求められている生産性向上を達成するためには、これがはじめの一歩になるととらえています。

表 1 ICT活用工事によって取得可能な3次元データの種類

建設DX
※15 国土技術政策総合研究所「ICT活用現場から得られる3次元データを活用したデジタルツインの実装と効果の検証」
土木技術資料 2021年7月号 pp.46-52

※16 「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」

建設DX
建設DX


デジタルツインを通じた建設現場の業務改善(例)

サイバー空間内における施工進捗の確認~建設現場のモニタリング~

土工事において、全体進捗を頻繫に把握することは、貴重な時間と人材を費やすことになり、手間が掛かる作業です。この時、掘削・積込を行う油圧ショベルに3D MC『Trimble Earthworks油圧ショベル』と、施工履歴データ管理システム『Trimble WorksOS』を導入することで、データドリブン※17な工事進捗や出来形の把握が常に可能になります。

【関連動画】
『WorksOS / WorksManager 施工履歴ドリブン』

建設DX
建設DX
建設DX
※17「データドリブン」とはデータを収集・分析し、さまざまな課題に対して判断・意思決定を行うこと。


[まとめ]

本コラムでは、建設現場のデジタル化を通じて、課題解決のヒントになることを目的に、デジタルツインの概念、デジタルツインの実現にむけた取組、i-Construction関連商品・ソリューションを扱う立場から実装可能な実例を説明させて頂きました。 本コラムが、建設現場における『デジタルツイン』のはじめの一歩として参考となれば幸いです。また、『デジタルツイン』と、『i-Construction』が両輪となって建設現場で実装される などし、生産性向上といった建設現場の課題が早期に解決されることを希望します。


ページトップ