VETERANS COLUMN
ベテランズコラム



サイテックジャパン
篠原 雅人
2023/12/4
建設DX
【第5回】建設現場における『発生土のトレーサビリティ』確保に向けて
  • 建設DX
  • i-Construction
  • 建設ICT導入
  • MC / MG

建設現場における『発生土のトレーサビリティ』確保に向けて

最近、新聞やテレビを見て、特に目立つようになった感じるニュースが、台風や線状降水帯といった激甚化する異常気象と、不幸にも頻発してしまった盛土災害です。これらニュースを見るたび、その被害の大きさを痛感するだけでなく、何かできることはないかと考えてしまいます。これに加え、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であるSDGs※1達成に向け、個人的に貢献できることを考えるきっかけとなりました。
今回のコラムでは、記録的な大雨などによって引き起こされる盛土災害の削減に向けて、建設現場における「発生土のトレーサビリティ」の確保について、改めて考えてみます。

※1「JAPAN SDGs Action Platform」外務省


盛土災害に関わる現状

異常気象(記録的な大雨)

本コラムで触れる盛土災害は、記録的な大雨に伴って盛土が崩落し、大規模な土石流を発生させた気象災害の一面もあると認識しています。ここで記録的な大雨を考えると、少し前の報道でよく聞いた「ゲリラ豪雨」と、最近の報道でよく聞く「線状降水帯」の2つがあります。気象庁が公表する「天気予報等で用いる用語※2」によると、 「ゲリラ豪雨」とは、局地的大雨や集中豪雨のことで、単独の積乱雲が発達することによって起きる、数十分の短時間に狭い範囲に数十mm程度の雨量をもたらす雨のことだそうです。

建設DX
【線状降水帯(バックビルディング)のしくみ】
出典:ゲリラ豪雨のしくみ[一般財団法人 日本気象協会]

一方、「線状降水帯」とは、次々と発生する発達した積乱雲が列をなした積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300km程度、幅20~50km程度の強い降水をともなう雨域のことだそうです。
私の感覚的な話ですが、局所的に一部地域に降る雨が、さらにひどくなったように感じます。これは、ここ数年の間でも「ゲリラ豪雨」から「線状降水帯」にそのトレンドが変わったと感じたことからです。また、このような平年から大きくかけ離れた異常気象は、地球温暖化が、その原因のひとつだと考えられています。※3、※4 盛土災害を引き起こすような記録的な大雨は、今後も発生する頻発すると当面は、覚悟しておく必要があると考えます。

建設DX
線状降水帯(バックビルディング)のしくみ】
出典:線状降水帯(バックビルディング)のしくみ[一般財団法人 日本気象協会]

このため、建設現場では、日常的に記録的な大雨が降った場合※5、※6に、建設現場の排水設備で雨水排水が適切に処理可能かを判断しておくことが、日常的に必要だと考えます。
具体的には、起工測量などで建設現場の現況形状を、建設現場条件に応じたドローン(UAV)による空中写真測量や3Dレーザスキャナで3D点群データとして取得し、建設現場内の雨水の流れを分析する方法があります。ちなみに、物理的な気候変動リスク情報を検討・公開することも、将来的には必要になるとされています。※7

建設DX
建設DX
建設現場における標定点 AeroPointを活用したUAVによる空中写真測量状況


建設DX
Trimble Stratus(ドローン3D解析)による3D座標点群データ変換処理
[3D座標点群の現況形状への処理]

建設DX
Trimble Business Centerを用いた3D座標点群データによる排水設備への排水状態の確認(排水勾配[2%]の確認)
[3D点群データの処理画面]

※2「天気予報等で用いる用語(予報用語)」気象庁
※3「令和元年(2019年)版 環境・循環型社会・生物多様性白書 第1部 第2章 気候変動影響への適応」環境省
※4「COP27(国連気候変動枠組条約第27回締約国会議)の情報」気候変動適応情報プラットフォーム A-PLAT
※5「川の防災情報 XRAIN【拡大試行版】」国土交通省
※6「キキクル(危険度分布)」気象庁
※7「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT) 事業者の適応」国立研究開発法人 国立環境研究所


盛土規制法案

2022年3月に発生した大規模な土石流災害を契機として、危険な盛土等に関する法律による規制が必ずしも十分でないエリアが存在していることなどを踏まえ※8、※9、「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案※10」が閣議決定されました。
この法案が成立されることによって、盛土等を行う土地の用途やその目的にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制されることになります。
さらには、建設工事標準請負契約約款の改正が行われます。この改正により、全ての公共工事発注者や、継続的に大規模な建設工事を発注している民間工事発注者に対して、指定利用等の原則実施や、発生土の計画制度の強化といった内容が反映されることになります。※11
発生土の場外搬出は、今まで以上に注目されることになると想定します。

※8「建設残土対策に関する実態調査<結果に基づく勧告>」(2021年12月20日)総務省
※9「盛土による災害の防止に関する検討会 提言」(2021年12月24日)内閣府
※10「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案」(2022年3月1日)[盛土規制法案]国土交通省
※11「建設工事標準請負契約約款の改正」(2022年6月21日開催 配付資料(資料3-1)中央建設業審議会


建設副産物,発生土(建設残土)とは

建設副産物は、建設工事に伴い副次的に得られた全ての物品のことを指し、建設現場から発生する土もこれに含まれます。
また、建設現場から発生する土のうち、廃棄物が混じっていない土と、廃棄物を取り除いた土は、発生土と呼ばれます。この発生土は、資源有効利用促進法※12によって、一定量以上の発生土を搬出する場合や一定量以上の土砂を搬入する場合は、再生資源利用促進計画※13を作成する必要があるなど、資源として有効利用する土です。ちなみに、発生土は、建設残土と標記されることもありますが、建設残土は、建設現場などで生じた土を総称する用語です。



先に書きました盛土規制法案により、今後は、建設工事前に発生土の搬入先が決まることが想定できます。※14(工事の施工条件として明示されることが想定されます) このため、工事発注者側から場外搬出した発生土の状況(発生土の搬出量)が建設現場に対して、聞かれる機会も多くなると想像されます。


※12「資源有効利用促進法」経済産業省
※13「再生資源利用[促進]計画様式(建設リサイクル報告様式兼用)」国土交通省
※14「建設発生土の官民有効利用マッチングシステム」建設発生土の官民有効利用マッチング運営事務局,国土交通省 総合政策局 公共事業企画調整課,国土交通省 大臣官房 公共事業調査室


発生土の場外搬出における管理

建設現場での管理項目

発生土を場外に搬出する建設現場では、次に示す管理すべき項目が必要になると考えます。

【掘削時に関わる管理項目】

【1】いつでも、設計データの平面範囲内ならどこでも、設計形状に対するバケット刃先の差分が案内されるため、出来形形状のバラつきを抑えられる。

【2】土質区分。(発生土の利用基準※15に準拠)

【3】含まれる廃棄物の有無。

【4】掘削作業の待ち時間。(建設車両の到着待ちによる油圧ショベル作業の中断時間)



【運搬時に関わる管理項目】

【5】建設車両への積載量(過積載※16,計画積載量の過不足)。

【6】運搬作業の待ち時間(積込み作業待ちによる建設車両作業の中断時間)。

【7】発生土の移動経路・通過時間(近隣説明などで定められた運搬経路,運搬時間帯)。

【8】搬出先・搬出量(発注者から指定された運搬先,搬入量)。


ここで想定した管理項目は、“今”何が起きているか把握し、対処する管理項目が多いと考えます。


※15「発生土利用基準[国土交通省]
※16直轄工事におけるダンプトラックの過積載防止対策要領について[国土交通省]


発生土に関わる管理項目の取得・確認に関わる建設DXの提案

現在の建設現場では、建設車両の積載量を管理するため、台(だい)貫(かん)や看貫(かんかん)(かんかん)と呼ばれるトラックスケールが建設現場の出入り口に準備されることがあると認識しています。さらに、発生土を積み込んだ建設車両は一般道を走行するため、タイヤに付いた土を落とす洗浄設備が設けられると認識しています。
私の認識では、多くの建設現場では、この運搬作業がクリティカルパス※17になります。
建設現場の生産性向上を達成するためには、建設車両の作業を極力遅滞なく行うことが必要不可欠だと考えます。

※17「クリティカルパスは、前の作業が完了しないと次の作業に着手できない関係があり、工事全体の中で工期を決定している工程のこと。(クリティカルパスで遅延が発生すると全体工程に影響が発生する。)


発生土に関わる管理項目の取得・確認に関わる建設DXの提案①

まず、掘削範囲の取得・確認を目的とした(管理項目①)、油圧ショベルのMCの導入をお勧めします。
この手段は、油圧ショベルのMCが有する「ポイント記録」機能を用いて、記録されたバケットの施工履歴データから、発生土の掘削範囲を取得・確認する方法となります。







建設DX
建設DX
Trimble Earthworks(油圧ショベルのMC)】
油圧ショベルに装備するTrimble Earthworksの機器構成


建設DX
建設DX
Trimble Earthworks(油圧ショベルのMC)を用いたポイント記録


建設DX
建設DX
Trimble Business Centerを用いた施工履歴データ(3D座標点群)に基づく掘削範囲
[3D座標点群の処理後の形状]


発生土に関わる管理項目の取得・確認に関わる建設DXの提案②

つぎに、建設車両への積載量の取得・確認を目的とした(管理項目⑤)、油圧ショベルの載荷マネジメントソリューションTrimble Earthworks LPM※18とTrimble Insight HQ/Snapshotアプリケーションの導入をお勧めします。
この手段は、油圧ショベルのMC をベースとした建設車両への積み込み作業時に、積込み重量を計測する方法で、NETIS登録※19された技術です。※20
積載量は、油圧ショベルの車体,ブーム,アーム,バケットに取付けたセンサー情報からバケット内の重心位置をモニターし、その瞬間のブームシリンダーの油圧負荷を重量に変換するもので、 Earthworks LPMは“みなしの秤”となります。このため、空のバケットとアームの重量を持ち上げるのに必要な油圧負荷を記録するゼロキャリブレーションと、建設現場に設置された計量法に準拠したトラックスケールによる計量データと、Trimble Earthworks LPMによる計量データとの整合性をとるスパンキャリブレーションの実施が肝心です。例えば、再生資源利用実施書でTrimble Earthworks LPMによる計量データを利用するためは、あらじめ建設現場と発注者の間でスパンキャリブレーションの実施頻度を決めることが必要になることです。
さらに、この技術とTrimble Insight HQ/Snapshotアプリケーションを組み合わせることによって、リアルタイムに積み込み作業を確認できるようになります。また、扱われた情報はクラウドを通じて保存されるため、建設車両ごとに積算された積込み量として確認することも可能です。“今”の積込み重量が、どこにいても確認できる方法と言えます。



建設DX
建設DX
【Trimble Earthworks LPM】主要コンポーネント図


建設DX
建設DX
Trimble Earthworks LPMLoadriteアプリ


建設DX
建設DX

建設DX
建設DX

建設DX
建設DX
スパンキャリブレーション


建設DX
建設DX
Web帳票(リアルタイムの情報共有)

※18LPMは、Loadrite Payload Managementの略のこと。
※19NETIS(New Technology Information System):新技術情報提供システム。民間企業等により開発された新技術に係る情報を共有及び提供するための国土交通省によって運営されるデータベース。
※20KT-180023-VE 荷重判定装置 LOADRITE


[まとめ]

今回のコラムでは、盛土災害の削減に貢献することを目指して、i-Construction関連商品・ソリューションの販売を行っている立場から、建設現場における「発生土のトレーサビリティ」の確保するために建設現場でできることを考えました。
さらに、ここでお勧めさせて頂いた方法を導入することによって、建設車両に適切な積込み量を順守することにも繋がると考えます。また、建設車両の台数が最適化や、建設車両のムダな燃料費を削減することはもちろん、建設現場のCO2削減に少しづつかもしれませんが、貢献できると考えます。
一方、現在、日本政府は、2011年3月に発災した東日本大震災を契機に定められた法令「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」※21に基づき、国土強靭化基本計画※22を政策として進めています。
この点も含め、建設現場で役立つ、i-Construction関連商品・ソリューションを使用した新たな手段を、これからも考えていきます。

※21「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」内閣官房
※22「国土強靭化基本計画」内閣官房


ページトップ